6-1.熱の移動
熱流:室内外に温度差がある時、高温側から低温側に常に熱が一定量流れ続けている状態。壁が定常状態(時間的に変化しない状態)であれば壁のどの部位でも熱流は一定(熱伝達=熱伝導=熱貫流)となる。
熱伝達:対流や放射によって、壁の表面を伝わる熱流。室内側、室外側の2面で熱伝達は起きる。
熱伝導:壁の表面に伝わった熱が、壁体の厚み方向に移動していく熱流。
熱貫流:壁面全体における熱流。
\(R\):熱貫流抵抗 [㎡・K/W] \(K\):熱貫流率 [W/㎡・K](K=1/R)
\(t_i\):室温 [℃] \(t_o\):外気温度 [℃] \(t_1\)(\(t_{si}\)):室内側表面温度 \(t_2\)(\(t_{so}\)):室外側表面温度 \(d\):材料の厚さ[m]
\(\alpha\):熱伝達率[W/㎡・K] \(\lambda\):熱伝導率[W/m・K]
$$R= r_i + r_k + r_o [m^2・K/W]⇒R=\frac{1}{\alpha_i} +\frac{d}{\lambda} +\frac{1}{\alpha_o} [m^2・K/W]$$
\(r_i\) :室内側熱伝達抵抗 [㎡・K/W] \(r_k\):壁の熱伝導抵抗 [㎡・K/W] \(r_o\):室外側熱伝達抵抗 [㎡・K/W]
熱伝達抵抗(\(r_i\),\(r_o\))=\(\frac{1}{\alpha}\) 熱伝導抵抗\(r_k\)=\(\frac{d}{\lambda}\)
空気層の熱抵抗:空気層の断熱効果は、空気の厚みが1~1.5cm程度までは比例して大きくなり、2~4cm程度までは増加する。それ以上空気層の厚さを増しても、空気の対流により断熱効果はほとんど変わらない。
また、単層ガラスから複層ガラスにすると、熱抵抗は約2倍になる。
空気層の片面あるいは両面にアルミ箔を入れると、放射による熱移動が小さくなるため、熱抵抗が2倍以上になる
熱伝達率\(\alpha\)[W/㎡・K]:単位面積当たりの壁表面での熱の伝わりやすさのことで、値が大きいほど表面での熱の伝わりが大きくなり、壁の断熱性が低下する要因となる。
熱伝達抵抗[㎡・K/W]:熱伝達率の逆数で、\(r\)=\(\frac{1}{\alpha}\)で表す。この値が大きいと抵抗が大きくなり、表面の熱は伝わりにくくなる。
内壁側総合熱伝達率:7~9 [W/㎡・K] 常用値 9 [W/㎡・K]
外壁側総合熱伝達率:23~35 [W/㎡・K] 常用値 23 [W/㎡・K]
熱伝導率\(\lambda\)[W/m・K]:壁体内部の厚さ方向に向かって、どの程度熱が伝わりやすいかを表す。密度(比重)が大きい材料ほど\(\lambda\)は大きくなる傾向がある。
金属>コンクリート>板ガラス>木材>グラスウール
グラスウールなどの繊維系断熱材は、かさ比重が大きいほど熱伝導率は小さくなる。
水分を含むと\(\lambda\)は大きくなる。また、高温になるほど\(\lambda\)は大きくなる。
発泡樹脂性の保湿材の場合、空隙率が同じでも材料内部の気泡寸法が大きいものほど、\(\lambda\)は大きくなる。
かさ比重:空隙を含んだ比重。かさ比重が大きくなるということは材料が密になるということ。
熱伝導比抵抗[m・K/W]:熱伝導率の逆数で、\(\frac{1}{\lambda}\)で表す。熱伝導率が大きくなれば値は小さくなり、抵抗が小さくなる。熱伝導比抵抗の大きい材料ほど抵抗が大きくなり、温度勾配が急になる。
熱伝導抵抗[㎡・K/W]:熱伝導比抵抗に材料の厚さを乗じたもので\(\frac{d}{\lambda}\)で表す。厚さが増すほど値が大きくなり、抵抗が大きくなる。単板ガラスの熱貫流抵抗のうち、ガラス自体の熱伝導抵抗が占める割合は5%程度である。
率は熱の伝わりやすさを意味する。抵抗は熱の伝わりにくさを意味する。
熱伝達は表面積に比例する。表面積が2倍になれば熱流も2倍になる。熱伝達は厚さに関係しない。
熱伝導は厚さに反比例する。材料の厚さが2倍になれば熱流は1/2倍になる。熱伝導は表面積に関係しない。
熱貫流は表面積に比例する。表面積が2倍になれば熱流も2倍になる。熱貫流は厚さに反比例しない。材料の厚さが2倍になっても熱流は1/2倍にならない。
材料の厚さに関係しているのは、あくまで熱伝導の部分だけである。
6-2.外皮性能
相当外気温度(SAT: Sol-Air Temperature):外壁等に日射が当たる場合の影響を外気温度に換算した温度である。外表面に当たる日射の効果を外気温の上昇として捉えたものを日射の等価気温上昇といい、これに外気温を加えた値で表す。日射吸収量のほか、風速の影響も受ける。
熱損失係数[W/㎡・K]:「建築物内部から外部へ逃げる単位時間当たりの総熱量」を「建築物の延べ床面積」と「室内外の温度差」で除したものであり、建物(住宅)の断熱性、気密性を統合した熱的性能の評価指標として用いられる。
「建築物内部から外部へ逃げる単位時間当たりの総熱量」とは、「壁体などを通じて貫流によって失われる熱量」と「各室の換気および隙間風によって失われる熱量」の合計のことである。
外皮熱貫流率UA[W/㎡・K]:「外皮全体の熱損失量」を外皮総面積で除して求める。熱損失係数とは違い、換気による熱損失は含めない。
建築物省エネ法により、H28年度から住宅の評価指標として、熱損失係数から外皮平均熱貫流率UAに変更された。
熱損失係数との相違点として、床面積で除していたものが外皮総面積となり、換気による熱損失を考慮していたのが考慮されなくなった。
断熱性及び気密性:これらを高めることは、暖房時の熱損失が少なくなり、室温と室内表面温度の差を小さくすることにつながる。そのため、冷たい外気の流入による下降流や冷たい壁面などによって生じる下降流(コールドドラフト)が起こりにくくなるので、室内の上下温度差も小さくなり、最終的に、室内温熱環境が向上する。
結露防止:木造住宅において、屋根を断熱する場合、屋根材と断熱材の間に通気層を設けて湿気を排出することは、屋根材裏面での結露防止に有効である。なお、断熱材に直接冷気が入らないように防風層を設置するなど、断熱性能を失わない配慮が必要である。
比熱C[kJ/kg・K]:1kgの物質の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量。
熱容量Q[kJ/K]:比熱に質量を乗じたもの(熱容量=比熱×質量)で、熱容量が大きい材料は、温まりにくく、冷めにくい。
熱容量小=暖まりやすく、冷めやすい(A,C)
熱容量大=暖まりにくく、冷めにくい(B,D)
6-3.湿り空気と露点温度
絶対湿度[kg/kg(DA)]:ある状態の空気中に含まれる水蒸気の絶対量。
相対湿度:湿り空気の水蒸気量(水蒸気分圧)とその温度における飽和空気の水蒸気量(水蒸気分圧)。
湿り空気線図:湿り空気の熱的状態を示した線図、空調の負荷計算や空気の状態変化の解析に用いられる。
ある状態点から温度変化のみが行われた場合、X軸へ移動し、湿度変化のみが行われた場合、Y軸に移動する。
露点温度:絶対湿度を一定に保ちながら湿り空気を冷却した場合に、相対湿度が100%(飽和状態)となる温度。
飽和水蒸気量:温度によって異なり、高温になるほど多く、低温になるほど少なくなる。
飽和絶対湿度[kg/kg(DA)]:ある温度の空気が含むことができる限界の水蒸気量。
顕熱比(SHF:Sensible Heat Factor):湿り空気の状態変化で、全熱変化(顕熱量変化+潜熱量変化)に対する顕熱量変化の割合。
結露:表面温度が室内空気の露点温度よりも低くなると、飽和状態を超える水蒸気は気体として存在することができないため、水滴となる現象。
表面結露:壁体等の表面温度が「表面近傍空気に含まれる水蒸気量から求まる露点温度」よりも低くなると、壁体等の表面結露が生じる。
熱橋(ヒートブリッジ):外壁の鉄骨部分などにおいて、外部の温度が内部に伝わり易い部分のことであり、熱橋部分の室内側表面温度は、一般に、断熱部分の室内側表面温度に比べて、外気温度に近くなる。熱橋部分の室内側壁面は、表面結露しやすくなるので、熱橋部分に対する断熱補強が重要である。
厨房、浴室の結露防止:水蒸気が多く発生する在室者が多い場所では、換気を行い絶対湿度を下げる。
二重サッシの間の結露防止:壁の内部結露防止と同じように考え、室内側の高温多湿の空気をサッシ内に入れないように室内側のサッシの気密性を高め、室外側のサッシはサッシ内の湿気を逃げやすくするために、気密性を低くする。
外壁に接する押入れ内部の結露防止:押入れ内部の換気をよくすることが有効である。
一般に、暖房室の空気の湿度は高く、その室の押入れ内の空気も同様に湿度が高い。外壁に面する押入れの襖の断熱性を高めると、冷えた外壁により押入れの中の空気がより冷やされ、押入れ内部の結露も生じやすくなる。
結露防止:窓ガラスの屋内側にカーテンを設けると、ガラスとカーテンとの間の空気の流通が悪くなり、湿った空気が滞留し、また、ガラスの表面温度も下降するので、かえって結露しやすくなる。
内部結露:透湿性のある材料の壁体内部に侵入した水蒸気が凝縮して水滴となる現象。壁体内部に、高温高湿の室内空気を侵入させないことが重要である。
内部結露防止:冬期においては、室内の方が屋外より絶対湿度が高いため、断熱材の室内側に防湿層を設けることで、水蒸気の浸入を断熱材の手前で防ぐことができ、断熱材内部で内部結露しにくくなり、断熱材の性能低下を防ぐことができる。
結露防止:木造住宅において、外壁及び屋根を断熱する場合、外装材及び屋根材と断熱材の間に通気層を設けて湿気を排出することは、屋根材裏面での結露防止に有効である。
外断熱工法:内断熱に比べて外断熱の方が、壁体内で低温の場所ができにくいので、内部結露に対して有効である。
基礎断熱工法:床下を全面土間コンクリート床として、基礎部分を断熱し、基礎より内側を室内として扱う考え方で、外気に直接通じる床下換気口は設けない。なお、床断熱工法の場合は床部分で断熱するため、床下換気口が必要となる。
壁体における熱の移動をイメージできるようにする。
単位を表面積[㎡]当たりなのか厚さ[m]当たりなのかで抑える。
結露は室内側から湿度の移動を遮断、緩和する方法を考える。